この世界。

それは「ポケットモンスター」の世界をデータ化した物であり、かつては様々なポケモンやトレーナーのデータがこの世界で過ごしていた。

が、この世界を二分する戦いが起こり、トレーナーやポケモン達は互いに傷つけあい、お互いのデータを消していった。

この世界の創造者は、この戦いの教訓から、この世界に新たな法則を作った。

それは、手持ちを全て失ったり、大きな傷を負ったトレーナーのデータが自動的に圧縮され、データの消滅を免れる、というものだった。

圧縮されたデータを人々は「カード」と呼んだ。

「カード」はこの世界のトレーナーが生まれながらに持つ解凍ソフトによって、解凍することが出来た。

そして、創造者はこの世界に様々な「ポケットモンスター」の世界の人間を住まわせたのであった。
ポケモンマスターを目指す少年サトシの物語の世界、図鑑所有者達の物語の世界、挙げればきりがない。

その中で、優秀なポケモントレーナーを創造者はファイターと呼んだのだった。

そして、この世界に二度と大きな争いが起こることはない…はずだった。

この世界の規律を破るものが現れるまで…

〜反転世界〜

反転世界…
それはこの世界の空間を支える、鏡のような世界である。

反転世界の怪しい建物の側に立つ一人の青年。
その青年は落ちているモンスターボールを拾い上げた。

「遂に…遂に捕まえた」

青年はモンスターボールをポケットに仕舞う。
静かに風が舞い、青年の髪を揺らす。

「…もうすぐあいつらに会いに行ける」

静かに吹き付ける風は次第に強さを増し、風上に時空の裂け目が発生した。

青年はその時空の裂け目へと歩を進めて言った。

〜テンガン山やりのはしら〜

反転世界の出来事から数週間後のことである。
カントーやジョウトから遥か北にあるシンオウ地方。シンオウ地方の中央を貫く、シンオウの背骨とも言うべきテンガン山。その頂上の「やりのはしら」という遺跡にポケモントレーナーはいた。
「ポケモントレーナー」といっても、職業名としてのポケモントレーナーではない。 「ポケモントレーナー」という名前のポケモントレーナーである。
随分ややこしいが、これ以外の呼び方が無いので、仕方が無い。
彼は「亜空の使者」である亜空軍とそのボス、タブーとの戦いを終え、共に亜空軍と戦った仲間、リュカに自分の世界を紹介するために、リュカと待ち合わせしているのだ。

彼は辺りを見回すと、大きくため息をついた。

いつまで経ってもリュカがこないのである。

冷たい風が吹くばかりで、動く物も無い。

ポケモントレーナーは腰を下ろし、モンスターボールを磨き始めた。

「…………はぁ。それにしても、リュカが遅いな」

ポケモントレーナーが大きなため息をついた時だった。

「ごめんごめん、遅くなったー!」

ポケモントレーナーを待たせている張本人、リュカ登場。

「…どこで道草食ってたの?」
「ちょっとそれどころじゃない事態が起きてね…」

リュカは苦笑いする。

「それどころじゃない?」
「実は…」

〜シンオウ地方のとある公園〜

とある公園にあるバトルフィールド。
普段はちらほらとしか人が見えないそのバトルフィールドに今日は人だかりができていた。

なぜかといえば、この公園では年に1度開かれるポケモンバトルのイベントが行われているからである。
3連勝すると、商品をもらえるという「トリプル・ビート」というイベントである。

旅を続けるサトシ達一行はトリプル・ビートに参加するため、この公園へとやってきたのであった。

登録を終えて、サトシはチャレンジャーの列に並ぶ。

「さあ、赤コーナーヤマモト選手此処まで2連勝!! 豪華商品ゲットなるか?対するBコーナーはハレタ選手!!」
「行け!ドータクン!!」
「ならオイラは、ポッチャマだ!」

ハレタのモンスターボールは場外へ、そして観客が座っている観客席と飛んで行き……
観戦席にいたタケシの顔面を直撃した。

タケシは座っている椅子ごと後ろへ倒れる。

「……グフッ……イツツツ……」
「だ、大丈夫ですか?」

同じく観戦席にいたミツミが駆け寄ってくる。

「大丈夫ですよ、お姉さん…このタケシ、貴方とこうして出会うためにはどんな苦労も…」

その瞬間。グレッグルの「毒づき」がタケシのわき腹にクリーンヒット。急所に当たった、効果は抜群だ。
そうして再び沈んだタケシをグレッグルが引っ張っていった。

「……えっと…………」
「あ、気にしないで下さい。いつものことですから」

リアクションに困っているミツミにヒカリが声をかける。

「ええ、気にしないで下さい。私は大丈夫ですから」
「タケシ復活早!!」

……とりあえず、ボケツッコミの応酬に取り残されて困っているミツミのとれた行動は、飛んできたモンスターボールから出てきたポッチャマをハレタの元へ行く催促をするぐらいだった。

「えー、それでは改めて、ヤマモト選手対ハレタ選手、試合開始!」
「ドータクン、『トリックルーム』!!」

バトルフィールどと周りの観客席にぐにゃっとした変な感覚が襲う。
その歪みは視覚でもはっきり見て取れ、ときどききれいに晴れた空が不自然にゆがんだりした。

「タケシ、トリックルームって…?」
「あたりの時間軸をゆがませる技だ。『トリックルーム』の中では普段スピードが遅いポケモンほど早く動けるし、早いポケモンは動きにくくなるんだ」

タケシが腕組をしながら答える。

「行くで、ポッチャマ、ハイドロポンプ!!」

ポッチャマのくちばしから発射された水柱はぐんぐん伸び、ドータクンへと向かう。

「ジャイロボール!」

ジャイロボールがポッチャマのハイドロポンプを吹き飛ばす。
そのままジャイロボールがポッチャマに迫り、クリーンヒットする。

「続けてメタルバーストをポッチャマに撃つんだ」
「ポッチャマ、ドータクンの下に潜り込むんだ!」

だがポッチャマはトリックルームの影響で機敏に動けず、メタルバーストバーストの餌食になる。

「連続でメタルバースト!」

メタルバースとの閃光が次々にポッチャマに襲いかかる。
しかも、ポッチャマは上手く動けないため、メタルバーストの集中砲火の格好の的だ。

「とどめだ!ドータクン、ジャイロボール!!」
「おーっと、ここでドータクンはポッチャマに止めをさしに行った!ポッチャマはここまでかー!?」

ジャイロボールがポッチャマに迫る。
ジャイロボールは鋼タイプの技で、ポッチャマに効果はいまひとつではあるが、メタルバーストがあれだけヒットし、今の弱っているポッチャマなら十分戦闘不能に出来る。

「ハレタ、ポッチャマが!!」

ミツミが大声で叫ぶ。

「おう!ポッチャマ、ギリギリまでひきつけるんだー!」
「…何をする気か知らないが、行け、ドータクン!!」

ドータクンのジャイロボールがポッチャマにヒットせん、としたその瞬間、

「ハイドロポンプ!!」

強力なハイドロポンプがドータクンを押し流し、地面にたたきつけた。

「タケシ、この威力って…」
「ああ、特性の『激流』だ。体力が減らされてピンチの時に水タイプの威力が上がるんだ。」
「あら、詳しいのね」
「ええ。自分は世界一のポケモンブリーダーを目指して旅をしているんです。あ、自分、タケシと言います」
「私、ヒカリです」
「私はミツミ。宜しく」

三人が挨拶を終えるとトリックルームによって引き起こされた奇妙な感覚は引いていく。
と、同時に、歪んだ空も元に戻った。

「おーっと、ここで『トリックルーム』が切れてしまったぁ!! ヤマモト選手万事休すか?」
「まだまだ! ドータクン、最大パワーでメタルバースト!」
「ハイドロポンプ!!」

ハイドロポンプとメタルバーストが正面衝突し、大爆発を引き起こす。
その爆発の影響で、煙が上がり、フィールドの視界がきかなくなる。

「ハイドロポンプとメタルバーストが激突ぅ! 果たしてドータクンとポッチャマは?」

そして、煙が落ち着いたときにフィールドに立っていたのは、ポッチャマで、ドータクンは倒れてぐるぐると目を回していた。

「ドータクン、戦闘不能! ハレタ選手の勝利だぁ!!」
「やったで、ポッチャマ!」

その様子を観客席から黙って伺っている存在があった。

「ボス、ターゲット達を確認しました」
「よし、作戦に入れ」
「了解」

その人は一旦観客席を離れ、公園の外へと向かっていたのであった。

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