〜マスターの部屋〜
その部屋には溢れんばかりの電子機器が設置されていた。 ここはこの小説の舞台となっている「世界」を創ったマスターの部屋だ。 その部屋の中央にあるパソコンの前にマスターは座っていた。
「私は……争いのない世界を作ったはずだったんだが……何故こんなことになってしまったのか……」 マスターは頭痛が起こったかのように頭を抱えた。
「仕方ありません。例えどんな優秀な方であろうと冥界、死の世界から世界征服をしようとする者が現れるなど、想定できないかと」 ドアを開けて入って来た女性が静かにそう言う。 「どんな優秀な方でも……か。忠実に『ポケットモンスター』の世界を再現しようとして反転世界や冥界まで作ったのがミスだったな」 はあ、と大きなため息をついた。
「世界」は全て電子データ。この部屋を埋め尽くす機械類の中に、「世界」があるのだ。 「いずれにせよ、これ以上奴の動きを静観している訳にはいかない。リン、ファイターたちをそれとなく戦いに誘導してくれ。ファイター達なら奴を止められるはずだ」
そういうと、リンと呼ばれた女性は機械のボタンを押して、テレポートをしたかのように消えた。 「私が選んだファイター達ならきっと……」 マスターはそう呟いて席を立った。 マスターが席を立った後も機械は休むことなく働いていた。 その部屋の中、いや、その部屋で動く機械の中の世界で運命は動きつつあった。
マスターは、悪い方向に向かいつつある運命を食い止められるのは「ファイター」達しかいないと思っているようだ。 既に戦いは始まっている。
〜1番道路〜 マサラの図鑑所有者の一人であるレッド。
「マサラタウンも久しぶりだな、ピカ」
レッドについてくるピカも嬉しそうである。
この岡を登ると、眼下に平和なマサラタウンが広がる……はずだったのだが…… 「……これは!!」 レッドの目の前広がったのは破壊の限りを尽くされたマサラタウンだった。
……もっとも、ギャラドスでさえここまで暴れまわらないだろう。
「マサラタウンに何があったんだ?ピカ、急ぐぞ!!」 レッドは急いで崩れかけているオーキド研究所へと向かった。 「博士!オーキド博士!」 研究所の中を探し回るレッド。
「おお……レッドか……」 奥の部屋からオーキド博士が現れる。
「博士、いったい何があったんですか?」
オーキド博士は俯いて頷いた。 「ああ……ブルーは奴らの攻撃を喰い止めようとしたんじゃが……流石に数が違いすぎたんじゃ」 オーキド博士は生き残っている計器類を操作し、パネルにマサラタウン襲撃の様子を映し出した。 リザードンやルカリオ、フシギソウ。それにエーフィやブラッキーが町を破壊して回っている。 「奴らに取り付けた発信機によると……奴らはオーレ地方に向かっているらしい」
オーキド博士は地図を床一面に広げる。
治安もあまりよくないため、悪の組織が基地を構えるには格好の場所である。 「ここが、カントー、そしてホウエンじゃ。さらにその先にオーレ地方がある」 それを聞いたレッドはピカをボールに戻し、プテをボールから出す。 「博士、俺行きます。ブルーがさらわれた以上、黙って見てはいられないですから」
レッドは決意の表情で頷く。 「行くぞ、プテ!!」 レッドとプテはトキワへと向かって飛び立ったのだった。
〜オーレポケモン総合研究所〜 『…付近で停滞している記録的大型の台風と思われるものは、停滞しながらも発達を続け、本日アイオポートに上陸し、アイオポート住民には避難勧告が出されています』 テレビのアナウンサーが言っているのを真剣に聞いているリュウトとこの研究所の所長であるクレイン。
「クレイン所長…あの辺りって……」
クレインはパソコンの画面を覗きながらキーボードを叩く。 「ダーク・ポケモン事件以後にニケルダーク島を調査した調査隊の報告によれば、ニケルダーク島にある元シャドーの研究所には嵐を人工的に発生させる装置があったそうだ。その装置が誤作動したか、あるいは……何者かがその装置が使っているかだ」 クレインはキーボードを叩くのを止め、リュウトの方を向く。 「……シャドーが蘇ったかもしれないってことですよね? じゃあ僕が様子見てきますよ」
リュウトはスナッチマシンを右腕に着けると、「でんこうせっか」のように早く研究所を飛び出して行った。
〜アイオポート〜 強烈に吹き付ける風と雨で、普段は人でごった返しているアイオポートも外を歩いている人は一人も見当たらない。
……もっとも、人工的に作りだされた嵐である可能性があるので、「自然の驚異」と断定できないところはあるのだが。 「か…風が凄いな……」 リュウト程の少年なら飛ばされかねない。 リュウトは左手を顔の前にかざし、踏ん張って歩みを進める。 「……あった」 リュウトが立つ桟橋に停泊しているメカカイオーガ。
リュウトはメカカイオーガに乗り込み、エンジンをかける。 「発進!!」 リュウトがアクセルを踏むと、大暴れしている海原へとメカカイオーガは吸い込まれるがごとく進んでいった。 |