〜カントー地方クチバシティ〜

「クカ、クカカカ! すばらしい! やはり海の力は偉大だ!」

ギャラドスの上に乗ったアオギリは、カイオーガに港を攻撃するよう指示を出す。

すると、カイオーガははかいこうせんを使い、港を木っ端みじんに粉砕した。

「クカカカカカ……次はクチバそのものを消し去ってやる。クカカ、カイオーガ、津波でクチバの町を押し流せ!」

カイオーガが起こした津波がクチバの市街地に向かって海を突き進む。

「メフィス、めざめるパワータイプ全! ラシュハル、ラスターパージ!」
「レイ、マジカルリーフ! ミミ、サイコキネシス! ザーク、だいもんじ!」

技が津波にヒットし、津波が消滅する。

「……ぎりぎり間に合ったみたいね」

そう言って胸を撫で下ろすルイナの隣で、ルリは高性能スコープで海の様子を確認していた。

「こりゃあ厄介なことになったな」

ルリはアオギリの姿を捉らえると、そう呟いた。

「どういうこと?」
「このカイオーガに指示を出してる人間がちょっとな。お嬢も知ってるだろ? ホウエンの異常気象。あんときカイオーガとグラードンを目覚めさせたアホな連中がマグマ団とアクア団。今カイオーガに指示を出してるのはアクア団のボス、アオギリだ。もっとも、以前バトルフロンティアを襲撃したときに使った鎧を着てるみたいだがな」

そうこう言う間に、津波の第2波が押し寄せる。

「メフィス、ラシュハル、もう一発!」
「レイ、ミミ、ザーク、お願い!」

5体の技が津波にヒットするが、今回は津波の全てを四散させるにいたらず、残りの部分がクチバへと向かう。

「クチバが! しまっ……」

「草の究極技(ハードプラント)!!」
「炎の究極技(ブラストバーン)!!」
「電気の究極技(ボルテッカー)!!」

突然飛来した、草、炎、電気のエネルギーが津波を吹き飛ばした。

「ふう……間一髪だったな」
「ああ」

究極技を放ったポケモン達のトレーナー、レッド、グリーン、イエローの姿がそこにはあった。

「グリーン! どうしてここに?」

ルリは仕事の関係で、トキワのジムリーダーであるグリーンとは面識があった。

「ルリか。この緊急事態だ、とりあえず、話は後だ」
「ああ、なんせカイオーガに指示をだしてるのがアオギリだしな、ちょっと厄介だ」
「……? ルリ、お前今なんて言った?」

グリーンが驚いた表情でルリに尋ねる。

「え……『カイオーガに指示をだしてるのがアオギリだし、ちょっと厄介だ』って言ったがそれがどうかしたか?」
「そんなはずは無い! アオギリは確かにあの時鎧と共に消えたはずだ! イエロー、お前も見ただろ?」

レッドの問いかけにイエローが頷く。
レッドとグリーン、イエローは顔を見合わせた。

そりゃそうだ。 死んだはずのアオギリが復活してカイオーガに指示を出しているなんて、にわかには信じがたい。

「アオギリが死んだ? ポケモン協会の報告書には行方不明って書いてあったぜ?」
「でも実際は違うんですよ!」
「レッド、イエロー、落ち着け。相手が誰であろうと、とりあえずこの状況を打破するのが先だ」
「……誰か来たぞ!」
「クカカ……ファイターごときにこの私を止められるはずがないであろうが!」

ギャラドスの上に乗ったアオギリの姿がそこにあった。

「アオギリ! 貴様生きていたのか!」
「アオギリ? クカカ、面白いことを言う。私の名はシー=ガイル。アオギリを元に創られた存在だ」

まあ、元々のアオギリ自体は死んだがな、とガイルは付け加えた。

「行け、カイオーガ! 逆らう者どもを一掃しろ!」

カイオーガが「はかいこうせん」の体制に入る。

「ピカ、雷だ!」

辺りの雨雲から雷がカイオーガに降り注ぐ。
……が、肝心のダメージは無さそうである。

「ラシュハル、サイコキネシスではかいこうせんを跳ね返せ!」
「ミラース、お願いします! 冷凍ビーム!」

ラシュハルがサイコキネシスではかいこうせんを弱め、弱まったはかいこうせんを氷の壁で防ごう、という二段構えの戦法。

これではかいこうせんは防いだ……かのように見えた。

「クカカカカ! そんなゴミのような攻撃が通用すると思ったか! 愚か者め!」

カイオーガのはかいこうせんが地面に突き刺さる。

辺り一体を走る破壊と衝撃の効果音。

「くっ! なんてパワーだ!」

レッドたちは吹き飛ばされないように踏ん張り、ポケモン達に指示を出すも、技はカイオーガの攻撃に飲み込まれる。

「何か……カイオーガに匹敵するようなパワーは無いのか!」
「さっきみたいに究極技を合わせるんじゃ駄目なんでしょうか?」

イエローの問いにグリーンは首を振る。

「さっきは俺達の究極技とルリ達の技を合わせてやっと津波を相殺できる程度だ。カイオーガにダメージを与えられるはずがない……しかも、あれだけの威力のはかいこうせん……あれだけの威力?」

グリーンは少し俯いて考え事を始める。

「レッド、俺達は思い込みをしていたのかも知れない」
「思い込み?」
「ああ、俺達はあの圧倒的な『はかいこうせん』の威力を、カイオーガが伝説のポケモンだからだと思っていたが……カイオーガが『はかいこうせん』しか撃ってこないところをみると、もしかしたらカイオーガに『こだわりメガネ』が装備されているのではないか?」

こだわりメガネは同じ技しか出せなくなる代わりに特殊技の威力が跳ね上がるアイテムだ。
確かに、こだわりメガネが装備されているならあの威力も説明がつく。

「ああ、確かにこだわりメガネが装備されてるな」

ルリは超高性能スコープでカイオーガを見ながら言った。

「となれば、はかいこうせんを封じれば良いんですよね?」
「ああ、そうだな」
「クカ、何をごちゃごちゃ言っている! どんな策を講じようが、このシー=ガイルの前では無意味ということを思い知れ!」

ガイルが剣を振り、レッド達を吹き飛ばす。

「クカカカカ! 私、あるいはあのお方に歯向かう者はまとめて排除するのみだ!」
「……そうは行かないですね」

突如、背後から来た電気エネルギーがガイルの剣を弾き飛ばす。

「……何者だ?」
「名乗る必要を感じませんね、ライコウ、かみなり、スイクン、ハイドロポンプ!!」

かみなりとハイドロポンプがガイルを吹き飛ばす。

「クカカカカ……貴様、オーレ地方のレオだな? クカカカ……いいだろう、他のファイター諸とも貴様も消し去ってくれる!!」

ガイルは弾き飛ばされた剣を拾い、再び構えた。

「カイオーガ、はかいこうせん!」

…………………
…………………
…………………

「……? 何故だ! 何故はかいこうせんを発射しない、カイオーガ!?」
「教えましょうか? それはアタシのミミが『ふういん』を使ったからですよ」

ルイナがニコッと笑って答える。
「ふういん」は自分が覚えている技を相手が使えないようにする技。
つまり、全ての技を使えるミュウのミミがふういんを使った今、カイオーガははかいこうせんは勿論、たいあたりでさえ使うことが出来ない。

「ガイル、観念しろ!」
「マサラタウンの襲撃もあなたの仕業!? スフィア達をすぐに返して!!」

〜ルイナの回想・オーキド研究所〜

ルイナの母親がルイナの肩に手を置いて口を開く。

「ルイナ、ごめんね。私たちがマサラタウンが襲撃を受けていると連絡を受けたときは既に手遅れだった。マサラタウンは壊滅状態、既に研究所のポケモンは……」
「そんな……」

〜回想終了〜

「クク、クカカカ……マサラタウン? ああ、確かにマサラはこの私が襲撃したさ。あまりにも簡単なんで面白くもなかったがな。……しかし、ファイター達よ、ここまで粘られるとは思わなかった。仕方ない、ここは一度退却してやろう。だが、次会う時は……覚悟をしておけ!」

ガイルはテレポートを使い、その場から立ち去った。

「……なんつーありきたりな捨て台詞」
「しかし、間一髪だったな」

ルリはバックからタオルを取り出し、雨で濡れた髪を拭きながら言った。

「レオさん……でしたっけ? ありがとうございました、おかげで助かりました」
「……レッド、グリーン、イエロー、ルリ、ルイナ。君達は戦いの運命の中にいる」
「……何のことですか?」
「ホロンの研究島に行くからついて来てくれ。そこであいつが全てを話すだろう」

レオはまっすぐクチバの港へ向かって歩き出した。

「……よく分からないけど、とりあえず俺達も行こうぜ」

レッドはグリーンとイエローに向かって言った。

「そうだな」
「そうですね……」
「お嬢、俺達も……」
「……うん」

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