本日はイクシードが手持ちに加わった日の6日後。
つまりコンテストの前日である。

「アナベル、スピードスター!!」
「エーフィーッ!!」

大量のスピードスターが空中に舞う。

「続いてサイコキネシスからシャドーボール!!」
「エフィ!!」

サイコキネシスでスピードスターを集め、作った大きな星に、シャドーボールを 当てると、四散したスピードスターがシャワーのように降り注ぐ。

「よし、完成だね!!」
「エフィ♪」

「お疲れさま、アナベル。ゆっくり休んでね。」

僕はそう言って、アナベルをモンスターボールに戻す。
今回のパフォーマンスステージはイクシードで行くんだけど、アナベルの技も完 成させておいて損は無いはずだよね。

さってと、エントリーしに行かなきゃな。

 

 

 

 

【第3話 赤い髪の少女】

エントリーをするためにコンテスト会場の受付に行った僕の足、いや、全身が固 まった。
…オレンジに近い赤い髪にオレンジ色の上着。
そう、あのノゾミ様がいたんだ

ノゾミさんと言えば、あのクールな性格に、ポケモンコンテストへの熱意!!
そしてサトシやヒカリとの爽やかな友情!!

僕がポケモンアニメでその魅力にノックアウトされたトップクラスに尊敬できる 人である。
いやあ、コトブキ大会を見たときは、死ぬかと思ったよ。だってノゾミさんかっ こよすぎだし…

…つーか、落ち着け僕。
こんなとこで固まってたら挙動不審扱い、精神病院行き確定だろ。

僕は大きく深呼吸をして…受付へと進む。

「え、えーっと…ポケモンコンテスト参加しに来たんですけど…えーっと…」

いやあ、明らかに挙動不審です。
自分で分かるから嫌になっちゃう。

でも仕方ないだろ!!
となりでノゾミさんがエントリー手続きしてるんだし!!(逆ギレ)

「では、コンテストパスを提示してください。」
「あ、これが初挑戦なんで、コンテストパスを持って無いんですよ…。」
「そうですか。じゃあ、コンテストパスを発行しますので、ポケモン図鑑をそこ のスロットに入れてください。」

ビシリ!!

すっかり忘れてた。僕にはポケモン図鑑も無ければ、身分証明書も無い。 どうしよう…

「えーっと、どうかなさいましたか?」
「あ、いや、それが今、身分証明書が無くて…」
「申し訳ありません、ポケモン図鑑か身分証明書がないとコンテストパスは発行 出来ないんですよ。身分証明書を取りに戻って頂けますでしょうか?」
「わ、わかりました……」

僕はトボトボとホールの入口に向かって歩く。

「アンタ、どうかしたの?」

ビシリ!!
僕は再び効果音を立てて固まる。
手続きが終わって、こちらの様子を見ていたらしいノゾミさんに話し掛けられて しまったからだ。

「あ、いや、その…身分証明書を持ってきてなくて、コンテストパス発行して貰 えないから、取りに戻らなきゃいけないんだよ…」
「…アンタ、嘘付くの下手だね。嘘だっていうのバレバレだよ。」
「……………………………」
「ここで話すのもなんだから、喫茶店にでも入ろうか?アタシに協力してあげら れることなら協力してあげられるし。アタシはノゾミ。トップコーディネーター を目指してる。」
「……………ありがとう。僕はツバサ。」

僕らは、コンテスト会場の近くにある喫茶店に入った。
僕は彼女にこの世界に来た経緯を話した。
だって、ノゾミさんには隠し通せないだろうし…

「ふうん、そうだったんだ。」
「…え?信じてくれるの?」
「ああ。アンタが嘘付いてたら分かりそうだし。……それで、コンテストに挑戦 したいのか…」

ノゾミさんはしばらく下を向いて考え込む。

「要はポケモン図鑑があればいいんでしょ?ならなんとかなると思うよ。」
「本当に?」

ノゾミさんが僕を連れていったのはポケモンセンター。

「ジョーイさん、彼、事情があって両親がいないらしいんだ。だから、身分証明 書もポケモン図鑑も持っていなくて、ポケモンコンテストにも参加出来ない。図 鑑を発行してあげてくれませんか?」
「良いわよ。お名前は?」
「ツバサです。」
「ツバサさんね。モンスターボールの転送先はどうしますか?」
「ツバサ、アタシの実家で良いよ。両親には話通しておくから。」
「本当?ありがとう、ノゾミさん!!」
「さんは付けなくて良いよ。アンタみたいな人見ると、放って置け無い性でね。」

ノゾミはそう言うと、クスッと笑った。
やっぱり、頼れるし、憧れるよなぁ…ノゾミ…

直ぐに僕のポケモン図鑑が発行され、僕はコンテストエントリーの手続きが出来 た。

その夜………

「……眠れない…。」

僕は、個室に戻って、ベットに直行したのだが、横になってから2時間、全く眠 気が襲ってこない。

「……………………」

僕は、黙ってベットから降りて、窓から月を見上げる。

「……………………」

なんだか、まだ実感が湧かないんだよね。
自分がポケモンアニメの世界に来ていて、明日、ポケモンコンテストに出場出来 るなんて…

なんだか夢みたいだな…
いや、もしかしたら本当に夢なのかもしれないけど…
そうだとしたら、いつまでも覚めないで欲しいな……この世界をもっともっと冒 険したいから……サーシャや、アナベルや、イクシード達と……

ふぁぁあ〜〜
やっと眠くなって来たよ…
早く寝よう…おやすみなさい……

ビリビリビリ!!

アガアガアガグワァーッ!!

よく分からない悲鳴を挙げて僕はベットから飛び起きる。

「やっと起きた?」
「サーシャ…君がこんな乱暴なやり方で起こしてくれたわけ?
「そ。だってツバサ、全然起きないし。」

いや、確かに昨日夜遅くまで起きてた僕が悪かったですよ?
でも、だからって、10万ボルトで起こすことないだろ…
一歩間違えば命に関わったよ…
ああ、頭痛がして来た…

とりあえず僕はパジャマから普段着に着替える。
後は、10万ボルトで爆発した髪の毛を洗面台で直す。

「さあ、アナベル、イクシード。今日は張り切っていくよ〜!」
「フィ!!」
「エレイ。」

「…より、私モモアンがお送りいたします!!それでは審査員の皆様方……」

ふう、間に合った。
僕は更衣室でドレスアップを済ませ、選手控室に入り、ニャルマーのブラッシン グをしているノゾミに声をかける。

「ノゾミ、おはよう。」
「おはよう、昨日はよく眠れた?」

う…痛いところを突かれた…

「………あんまり…かなぁ。」
「ま、コンテストデビュー前夜にぐっすり眠れる人なんて多く無いから心配しな くて良いと思うよ。」

「ノゾミさん、スタンバイお願いしま〜す。」
「わかりました。じゃ、ツバサ行ってくるから。」
「うん、ノゾミの演技、楽しみにしてるから!!」

ノゾミは軽くウインクして、待機場所に向かって行った。

「では、早速参りましょう!!エントリーナンバー1番、キッサキシティのノゾミ さんです!!」

ノゾミが軽快な足取りでフィールドに登場する。

「ニャルマー、Ready,GO!!」

ノゾミがニャルマーのモンスターボールを投げると、沢山の星と共にニャルマー が中からあらわれる。

「ニャルマー、みだれひっかき!!」

ニャルマーの猛スピードの「みだれひっかき」で、星は弾き返され、ステージ中 央へと集中する。

「ニャルマー、アイアンテールからもう一度みだれひっかき!!」

「アイアンテール」で中央に集中している星を砕き、光がニャルマーを包む。
光が消えると、そこには「みだれひっかき」で描き出されたコンテストリボンの マーク。そしてその中央にちょこんとニャルマーが座っていた。

あっと言う間の出来事に観客は一瞬静まりかえる。

「…こ、これは素晴らしい!!『みだれひっかき』で一瞬の内にコンテストリボン のマークを描き出しました!!」

モモアンさんの言葉を合図にしたように、観客からどわっと歓声が挙がる。

「一瞬の内にこれほどの物を書き上げるとは…『みだれひっかき』のスピードな くしては出来ない、素晴らしい演技ですね。」
「いやぁ、好きですねぇ〜。」
「ニャルマーの毛並みも素晴らしかったです。よく育てられてるのが分かります 。」

「うん、今回の演技は凄くノゾミらしいな…。」
「エル、エルレイ?」

えっと…イクシードは何を言ってるんだろう…?
まさかサーシャ出すわけにも行かないしなぁ。幻のポケモンだし…

(イクシードは、『なんでこの演技がノゾミらしい演技なの?』って聞いてるよ 。)

頭の中に直接声が響く。

「…サーシャ?」
(うん。あたしだよ。テレパシー使って、ボールの中から直接話しかけてるんだ 。)

そりゃあ、便利だなぁ…
今みたいにサーシャ出せない場面でもポケモン語訳して貰えるし。

「そうだ、イクシード、何で今の演技がノゾミらしいかの理由だっけ?」
「レイ。」

イクシードは首を縦に振る。

「彼女は、ポケモンコンテストに対して凄い向上心と思い入れを持ってるんだ。 」

だから、「何かをしながらコンテストに参加する」人を極端に嫌ってるんだよね。
コトブキ大会のサトシの件とかね。
まあ、最終的はサトシの良さにノゾミが気付いて、少し心惹かれた…ように僕に は見えた。

その後は何かとサトシとノゾミ、つるんでたからな…

とまあ、その件は置いといて。

「コンテストリボンのマークを作ったのは、彼女の『この大会で優勝します』と いう意思表示。コンテストに誰よりも打ち込んでいる彼女らしい演技だと思うよ 。」
「エル…エルレイド。」

「ツバサさん、そろそろスタンバイお願いしまーす。」
「さ、行くよ、イクシード。」
「エルレイッ!!」

「続いてのエントリー、キッサキシティのツバサさんです!!」

僕は駆け足でステージに上がる。

「イクシード、GO!!」

イクシードがボールカプセルから出て来た泡と共に登場する。

「つじぎり!!」

イクシードは、目にも留まらぬ早さで「つじぎり」を繰り出し、泡が割れて、水 しぶきが舞い、イクシードの毛並みの良さをアピールする。

「イクシード、回転してサイコカッター!!」

イクシードは片足を軸に回転しながら「サイコカッター」を繰り出し、辺り一体 を風圧で吹き飛ばす。

「回転してのサイコカッター出来た風で技の威力をアピール!!レベルの高い演技 でした!!」

「登場の演出で、技のキレと毛並みの美しさを同時にアピールするとは実にレベ ルが高い。」
「いやあ、好きですねぇ。」
「サイコカッターの威力もなかなかのものでした。よく育てられているのが分か ります。」

よかった…審査員さんたちの評価も決して悪くは無かった。

僕は一礼すると、ステージを後にした。

 

 

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