「さあ、ポケモンコンテストの特訓だ!!」
「…………………」
「…………………」
「…………………」
何だか嫌な予感がするのは私だけだろうか? そう思って、イクシードとアナベルをちらりと見ると、やはり苦い表情をしていた。
始まりは、今日の朝。
朝食を食べ終わった後、ノゾミに演技を見て貰っている時のことだった。
因みに、なんでアタシがツバサの手持ちにいるのかって理由も、ノゾミには軽く説明済み。
私は、モンスターボールから出ている。
というのも、ツバサが、「サーシャは幻のポケモンだけど、基本1000年に7日しか起きていられないポケモンだから、知名度は低い。だからポケモンに詳しい人が集まる可能性のあるコンテストとか以外なら外に出ててもいいよ。」と言ってくれたんだ。
「アナベル、スピードスターからアイアンテール!!」
「エーフィッ!!」
「スピードスター」を「アイアンテール」で砕き、光がアナベルのけづやの良さを引き立てる。
ノゾミは暫く考え込んで言った。
「発想はいいと思うんだ。ただ、アイアンテールを決める角度とタイミングが少しズレてる気がする。」
「タイミングと角度か…分かった、ちょっと練習してみるよ。」
といって、ツバサは私たちを連れて、キャンプから少し離れた場所へと到着する。
「さあ、ポケモンコンテストの特訓だ!!」
「…………………」
「…………………」
「…………………」
何だか嫌な予感がするのは私だけだろうか?
そう思って、イクシードとアナベルをちらりと見ると、やはり苦い表情をしていた。
恐らく、二人とも私と同じことを考えているんだろう。
それは、例のコンテストの3日前の出来事だった。
ツバサとアナベルがコンテストの動きを確認していたとき、アナベルが放ったシャドーボールがたまたま近くにあったらしい………スピアーの巣に直撃した。
昼食をとりながらそれを見ていた私とイクシードもスピアーの攻撃に巻き込まれた。
まあ、私が使ったテレポートのおかげで難は逃れたんだけどね。
で、今、ツバサがコンテストの練習しようとしているのは森の中。
野生のポケモンも沢山いそうだし…あの状況が再現されそうで怖い。
「さあ、軽くウォームアップしようか。アナベル、あの木に向かってスピードスター!」
「エーフィッ!!」
アナベルは一瞬躊躇ったが、考え直し、スピードスターを木に向けて放つ。
「………サーシャ、この状態に近いものを俺は数日前に見たような気がするんだが、気のせいか?」
イクシードがそう問いかけてくる。
勿論、ツバサには「………レイ、エルレイ、エル、レイ。」としか聞こえていないだろうが…
「いや、私は気のせいじゃないと思うな…」
目の前にいるのは「スピードスター」の直撃を喰らって、ご立腹のドラピオン&スコルピ御一行様。
「…えっと、あれはドラピオンとスコルピだよね?」
そう言って、ツバサはポケモン図鑑をドラピオンとスコルピに向ける。
『ドラピオン、ばけさそりポケモン。両腕の爪は車をスクラップにする破壊力がある。爪の先から毒を出す。』
『スコルピ、さそりポケモン。尻尾の爪で獲物を挟み、毒を送り込む。毒が効くまで絶対離さない執念の持ち主。』
「…この状況って…ひょっとしなくてもかなりまずいんじゃ…」
「こう言うのは逃げるが勝ち!テレポ…」
「ドラーッ!!」
「テレポート!」と叫ぶ前に、ドラピオンの「ヘドロばくだん」で吹っ飛ばされてしまった。
「あいたたた…みんな、大丈夫?」
私は問いかける。
「イタタタタ…んにしても、この世界ではあれだけの速度で落ちてもやっぱり痛いだけなんだね。」
「…よかった、無事だったんだ。」
私はツバサの発言(ツッコミ所が多々あるような気がするが、この際それはスルー。)を聞いてホッと胸をなでおろす。
「あれ?サーシャ、イクシードとアナベルは?」
「うーん、何処か別の場所に飛ばされたみたいだね…」
「あの二人迷子になったのか…ったく、しょうがないな〜」
「元はといえばツバサが悪いんでしょ?」
「…………はい。スイマセン。」
このツバサの軽く天然な所なんとかならないかな?どっかズレてるのよね、ツバサって。 ああ、頭痛が…
「とにかく!イクシードとサーシャを探そう。」
「うん、そうだね…」
私は疲れ切った声で言う。
その頃のサーシャとイクシードは…
(※此処から先は二匹の言葉を日本語訳してお送りいたします。)
軽く地面にめり込んでいる二匹が顔を上げる。
「…テテ、ったく、ツバサには学習機能が付いてないのかよ…」
「すいません、私がシャドーボールを撃ったばかりに…」
「そりゃあトレーナーの命令だから仕方ないさ。ツバサ…合流したらおもいっきりツッコミいれてやる…」
何処か間違っているような決意をしたイクシードだが、勿論それにツッコミを入れられる人間あるいはポケモンはここにはいない。
とりあえずイクシードの言いたい放題の状態である。
「…なんかナレーションにツッコミ入れられた気がするけど、まあいいや。取りあえずツバサ達を探さないと。」
「そうですね…」
…私がツッコミ入れないでこの状況で誰がツッコミ入れると?(byナレーター)
「さて、とりあえずツバサ達と合流しないとな。」
「そうですよね。」
…その頃私は、定位置であるツバサの頭の上に乗っかってアナベルとイクシードを探していた。
「イクシード!聞こえたら返事してくれー!」
「アナベルー!」
私とツバサは思いっきり叫ぶ。勿論その声が届く訳もないんだけど…
「ふう、サーシャ、少し休もうか。」
「そうだね。」
ツバサと私は辺りの草原に腰をおろす。
「…飲む?」
ツバサは水筒を私に差し出しながらそう言った。
「うん、ありがとう。」
私はお茶を受け取って飲む。 うん、よく冷えてておいしい。
「……ねぇ、サーシャ。」
「ん?何?」
「サーシャも含めて…みんなは僕のことどう思ってるのかな…」
「……みんなって、アナベルとイクシードと私の事?」
ツバサは頷いて、続けた。
「僕はさ、この世界に来て、まだ1ヶ月も経たないよね。そんな素人同然で変な僕がトレーナーやってて、みんなは不満じゃないのかなって。」
それは絶対に無い。
私だって、アナベルだって、イクシードだって、ツバサに付いて行きたいと思っている。これは間違いない。
でも…ツバサは不安なんだろうな…
初めてこの世界に来て、この世界で沢山の初めてを経験をして…まだ何処か戸惑っているんだろうね。きっと…
「…大丈夫だよツバサ。私もみんなもツバサの事が大好きだから。だからさ、自信を持って。」
「…ふう。全部見抜かれちゃってるか。」
「私を誰だと思ってるの?」
「ルビサファ時代からの僕のベストパートナーのサーシャ。」
私達は顔を見合わせてニッコリする。
「レイ!エレーイ!」
「あ、イクシードにアナベル!」
「レイ、エルレイ…。」
「フィ…エーフィ。」
「ごめん、ごめん、僕が悪かったよ。」
非難の声を挙げるイクシードどアナベル(正確に言えば文句を言っているのはイクシードだけで、アナベルは『心配しましたよ…』と言っているだけである。)にツバサは謝る。
…なんだかんだ言って、やっぱりアナベルもイクシードも、ツバサの事が好きなんだよね。
だから、自信を持って…ね?
「さて、皆合流出来たし、コンテストの練習再開しますか!!」
「お願いだからそれは止めて〜!!」
私は思いっきり叫んで、イクシードとアナベルは地面に突っ伏していたのであった。
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