目の前でじゃれあっているマリルの兄弟。

「リル!」
「リルリル〜」
「か、可愛い〜そう思わない?」
「まあね」

第6話 トレーナーとポケモン

僕たちは、ノゾミにコンテストのいろはを教えて貰いながら、コトブキシティへと向かっていた。

その途中、道路で遊ぶ兄弟らしい二匹のマリルと遭遇した。

「リルリルー!」

そんな和む風景で、茂みの中から一匹のポケモンが姿を現した。

「あれはマリルリだね。この子達の親かな?」

ノゾミが現れたマリルリを見てジラーチに聞く。

「そうみたいだね。因みに、あっちの右の方がお兄さんで、左が弟らしいよ」
「へぇ〜」

さあ、先へ急ごうと思った時だった。

「エレキッド、10万ボルト!」

いきなり10万ボルトが飛来し、母親マリルリに命中する。

「モンスターボール、アタック!」
「ちょっと待った!ジラーチ、サイコキネシス!」

エレキッドのトレーナーはモンスターボールを投げたが、僕はそれを制止し、ジラーチのサイコキネシスでボールを空中に停止させた。

「…何だお前は?人のゲットの邪魔をするな。」
「そんなこと言ったって、不意打ちをかけるなんて卑怯だし、この兄弟から母親を取り上げる気なの?シンジ!」

エレキッドのトレーナー…訂正、シンジは不意打ちを喰らったような顔をして、聞き返した。

「…? 何故俺の名前をしっている?」
「…あ、えーっと…」

しまったぁぁぁ!
ついシンジと呼んでしまった…
何か適切な言い訳を探さなきゃ…えーっと…

そう考えていると、いつかの回のシンジの言葉が脳裏をよぎる。

(『今まで、カントー、ジョウト、ホウエンのリーグを回りましたが、優勝はまだです』)

こ、これだー!!

「シンジは、ホウエンとか、ジョウトとかのポケモンリーグ出てたでしょ? 僕、割とポケモントレーナーの情報には詳しいんだ」
「……ま、それはいいが、ゲットの邪魔だ、そこをどけ」

その言葉を聞いた瞬間に、僕とノゾミの顔がむっとしたものになった。

「アンタ、このマリル兄弟から母親を引き離すつもりか?」

ノゾミが厳しい口調で問い詰める。

「俺には関係の無いことだ。第一、俺がどのポケモンをゲットしようが俺の勝手だろう」
「……………」

シンジはニヤリと嫌味な笑いを浮かべる。

…確かにシンジはこういう奴だ。アニメでもそういうキャラだったし。
しかし、やはりシンジも行き過ぎだよ…
ポケモンあってのトレーナーだし…

「モンスターボール、アタック!!」

シンジが再び投げたモンスターボールにマリルリが収まり、しばらくボールが揺れると、ゲットが完了した。

「ルリー!!」
「リルー!!」

シンジがモンスターボールを拾い上げた瞬間、マリル達がパニックをおこす。

「エレキッド、かみなりパンチで黙らせろ」

エレキッドが放ったかみなりパンチでマリル兄弟が吹っ飛ばされる。

「………!」

ノゾミは明らかに驚きと怒りを隠せないような表情になっている。
当然だ。この光景を見て怒らないシンジ以外のトレーナーがいたら是非お目にかかりたい。

「シンジ、君は本当に…」
「俺はクロガネジムに向けて水タイプを捕まえる必要がある。お前達にどうこう指図される覚えはない」

マリルリの技を図鑑でチェックしているシンジはそう答える。

「それとも、俺とバトルするか? 3対3のバトルだ。俺が負けたらこのマリルリは逃がして手を引く。かわりに俺が勝ったら俺に二度と指図するな」
「分かった。望むところだよ」

あまりの急展開ぶりに、ノゾミは呆気にとられたような表情になる。

「ツバサ、いきなりそんなバトルして大丈夫なの?」

ノゾミは小声で聞いてくる。

「大丈夫さ。まあ見ててよ。今まで練習したコンテストバトルの技術を生かしてちゃんとやるから」
「……大丈夫かなぁ」

ノゾミが何か呟いたようだが、聞こえなかった。
うん、聞こえないということにする。

「……しょうがない、審判はあたしがやるよ」
「いいだろう。まず俺の一番手だ、ヒコザル、バトルスタンバイ!!」
「GO、アナベル!!」

シンジのヒコザル。
後にシンジが逃がし、サトシのポケモンとなるヒコザル。確か現時点での持ち技はひのこ、ひっかく、あなをほる、かえんぐるまのはず。

遠距離攻撃の「ひのこ」と、どこから攻撃されるかわからない「あなをほる」に気をつけて、遠距離戦を仕掛ければいけるはずだ。

「ヒコザル、かえんぐるま!」
「アナベル、でんこうせっかで交わして!」

炎を纏って攻撃してくるヒコザルの横を「でんこうせっか」で通り抜けるアナベル。

「そのままシャドーボール!!」

アナベルの口元で形成された真っ黒なエネルギー弾は真っすぐヒコザルに向かい、ヒコザルの胴体を直撃した。
シャドーボールの直撃を喰らったヒコザルは放物線を描いて大きく弾き飛ばされる。

「ヒコザル、あなをほる!」

シンジの狙いは今の所、こちらにダメージを与えることではないはず。
彼のことだ、特性「もうか」の発動を狙ってくるはずである。
それを逆手にとって、「もうか」の発動をさせなければよいだけの話。つまり、発動前に強力な技で倒せばよいということだ。
今のシャドーボールで「もうか」が発動するかしないかぎりぎりの線ぐらいになったと思う。

「アナベル、落ち着いて引き付けるんだ」

「もうか」発動前に倒さないと、シンジのバトルスタイルならヒコザルの体に負担がかかりすぎる。
ヒコザルのためにも、勝つためにもなんとしても「もうか」発動は避けたい。

アナベルも察しているのか、じっとエスパー技で地中の様子を伺っている。

指示だけで僕の作戦を理解してくれるのはありがたいし、本当に頼もしいな。

「フィ!!」

エーフィがジャンプした瞬間、エーフィがいた地面に穴が開いて、そこからヒコザルが現れる。

「今だっ! アナベル、最大パワーでサイコキネシスっ!」

サイコキネシスのエネルギーが至近距離でヒコザルにヒットし、ヒコザルは地面に叩き付けられる。

「ヒコザル、戦闘不能。エーフィの勝ち!」

シンジはヒコザルを黙ってモンスターボールに戻す。

「ありがとう、アナベル、下がって休んでて」

アナベルは頷くと、僕の足元にちょこんと座った。

か、可愛い……

っと、そんなこと言っている場合ではなくて。
僕とシンジは同時にモンスターボールを手に取る。

「GO! イクシード!!」
「ヤミカラス、バトルスタンバイ!!」

……どおしよう(汗
イクシードの使える技は、サイコカッター、つじぎり、かげぶんしん、さいみんじゅつ。
サイコカッターは全く効果無し、さいみんじゅつはヤミカラスが特性「ふみん」なら無効と来た。
しかも、頼みのつじぎりも効果はいまひとつ。

……どうやって勝てと(泣
もうこうなったらヤミカラスが特性「ふみん」ではなく、特性「きょううん」であることを祈るしかない。

と、いうわけで。

「イクシード、さいみんじゅつ!」

イクシードは首を横に振る。
……え?

「レイ、エレイ!!」

イクシードが仕切に何か訴えてくる。

「サーシャ、お願い!」
「えーっと、イクシードは『新しい技を使えるようになったから、さいみんじゅつは忘れたんだ!』って言ってるよ」

新しい技……?
それってまさか……

「ヤミカラス、ゴットバード」

一方ヤミカラスはゴットバードの体勢に入り、イクシードに迫る。

「よーし、イクシード、インファイトだ!」

イクシードはヤミカラスに急接近し、ゴットバード中のヤミカラスにインファイトで真っ向勝負を仕掛ける。

二つの技が衝突し、辺りを強烈な爆風と爆音が襲う。

「イクシード、もう一発インファイトだ!!」
「ヤミカラス、ゴットバード」

ヤミカラスはゴットバードの体勢に入り、イクシードがインファイトの力を溜めているその時だった。

言いようのない奇妙な振動が辺りを襲う。

「……これは?」
「……!」

イクシードが注意をそらしたその瞬間、ゴットバードがイクシードの背中に直撃し、イクシードは大きく吹っ飛ばされる。

「エルレイド、戦闘不能! ヤミカラスの勝ち!」
「バトル中によそ見とは、随分と余裕だな」

シンジはそう言い放って、ヤミカラスをモンスターボールに戻し、僕はイクシードをモンスターボールに戻す。

それにしても今の振動はなんだったんだろう…?
いや、今はバトルに集中しなきゃ!

ていうか、3VS3だから可能ならイクシードまでで終わらせたかったんだけど……まあ無理だよな。

「ドダイトス、バトルスタンバイ!」
「サーシャ、行ってくれ!」
「オッケー!」

ドダイトスがモンスターボールから現れ、サーシャは一歩前へ出る……といってもサーシャは浮いてるからどれくらいが一歩なんだかわからないけど……

「ドダイトス、リーフストーム!」

いきなり真っ向勝負で来たか。望むところ!

「サーシャ、かみなりだ!」

かみなりとリーフストームが激突し、相殺……というわけにはいかない。
流石に一回目のリーフストームだし。

が、それはそれで好都合!

「残ったリーフストームをサイコキネシスで跳ね返せ!」
「ドダイトス、はかいこうせん」

跳ね返ったリーフストームとはかいこうせんが激突するが、はかいこうせんの威力がまさり、サーシャにヒットする。

「サーシャ、大丈夫?」
「オッケー、オッケー。問題ないよ」

はかいこうせんは撃ったあと反動で動けない。

「サーシャ、はめつのねがい!!」

サーシャの体が一瞬光る。

シンジは何が起こったか分からないという顔をしている。

「まあいい。ドダイトス、ギガドレイン!」
「サーシャ、交わして!」

サーシャは延びてくるムチというか触手というかよくわからんものを回避し続ける。

そして……
一瞬空が光り、激しい閃光がドダイトスを襲う。

これがはめつのねがいの効果。言わば強化版みらいよちだ!

「ジラーチ、接近してサイコキネシスだ!!」

はめつのねがいで緩んだギガドレインの間を抜け、ドダイトスに接近する。

「ハードプラント!」

なっ!
サイコキネシスを至近距離で当てようとしたサーシャに「しんりょく」が発動し威力があがったハードプラントが命中し、サーシャは大きく吹っ飛ばされる。

「勝負あったようだな。お前の攻撃パターンを見れば『みらいよち』と似た性質を持つ技、『はめつのねがい』がヒットした瞬間に接近してくるのは読めていた」
「……どうして『はめつのねがい』が『みらいよち』の強化版だと分かったの?」

というか、あのとき「何が起こったか分からない」という顔をしていたのは演技だったのか。

「『ねがい』と付く技は大体後から効果がでてくる。『はめつ』なんだから攻撃以外にないからな」

シンジはモンスターボールにドダイトスを戻すと、クロガネシティの方向に去って行った。

「惜しかったな……」

ノゾミがそう声をかけてくる。

「でも、負けは負けだよ。」

僕は、モンスターボールからサーシャとイクシードを出して、応急処置を始める。

「ごめんな、僕の力不足で」

僕はマリル兄弟に対して謝るが、マリル兄弟は首を横に振ってくれた。

「……ねえ、せっかくだからその子たちゲットしちゃえば?」

サーシャが僕にそういってくる。

「レイ、エルレイ」
「フィ〜」

どうやらアナベルとイクシードも賛成らしい。
マリル兄弟もどこと無く嬉しそうである。

「……そうだね! よーし!!」

僕は腰のモンスターボールを2つ取ると、大きく投げた。

マリル兄弟はそれにタッチし、中に吸い込まれる。

「よーし! マリル兄弟ゲット完了!!」

新しい仲間も増えて、僕らの旅はまだまだ続くんだ!

 

 

 

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